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2025年度の業績見通しに大ブレーキ 「増収増益」見込みが16.6%に急減

「業績予想」「過剰債務」に関するアンケート調査


 トランプ関税、物価高、「価格転嫁」負担で、国内企業の業績見通しが大幅に悪化したことがわかった。2025年度に「増収増益」を見込む企業は16.6%にとどまり、前回調査(2024年6月)の23.3%から6.7ポイント下落した。また、「(売上、利益とも)横這い」との回答が29.4%(前回20.9%)と約3割に達し、外需の恩恵やコロナ禍からの業績復調は、曲がり角を迎えたようだ。

 東京商工リサーチ(TSR)は、6月2日~9日にアンケート調査を実施した。自社の債務や借入返済について、企業の24.3%が「過剰債務」と回答した。前回調査から1.7ポイント改善したが、依然として4社に1社が債務の過剰感に苛まれている。「印刷・同関連業」や「道路旅客運送業」などで過剰債務を訴える企業が多く、業種特性ごとのきめ細やかなケアも必要になっている。
※本調査は、2025年6月2日~9日に、インターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答6,602社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
※Q1.4は2024年6月3日~10日に同一設問でアンケートを実施(公表日:2024年6月21日)。


Q1.貴社の今年度(2025年度)の業績はどのように見通しますか。1年間を通じた大まかな売上高と利益(経常利益ベース)の見通しをお答えください。(択一回答)

◇「増収増益」は16.6%

 「(売上)横這い(利益)横這い」の29.4%(6,602社中、1,942社、前回調査20.9%)が最も多かった。「減収減益」の17.0%(1,128社、同18.1%)、「増収増益」の16.6%(1,101社、同23.3%)と続く。
 「増収」(増収増益+増収横ばい+増収減益)は30.6%(2,023社、同39.9%)、「売上横這い」は44.5%(2,939社、同33.1%)、「減収」は24.8%(1,640社、同26.9%)だった。「増益」(増収増益+横這い増益+減収増益)は24.8%(1,643社、同32.7%)、「利益横這い」は42.9%(2,836社、同34.9%)、「減益」は32.1%(2,123社、同32.3%)だった。
 前回調査と比較して、売上・利益ともに苦戦する企業が目立つ結果となった。
 業種でみると、コロナ禍でマイナスの影響を受けたカテゴリーでは、売上・利益ともに復調が目立つ結果となった。


Q1.貴社の今年度(2025年度)の業績はどのように見通しますか。1年間を通じた大まかな売上高と利益(経常利益ベース)の見通しをお答えください。

Q2.Q1で「増益」と回答された方に伺います。なぜ増加を見込みますか?(複数回答)

◇「受注伸長」が66.6%

 Q1で「増益」と回答した企業のうち、1,524社から回答を得た。最多は「受注(販売)の伸長が見込まれる」の66.6%(1,016社)。以下、「価格転嫁が進んでいる」の38.3%(585社)、「製造・サービス提供の工程や方法の見直しによる効果」の12.3%(188社)と続く。
 規模別でみると、「価格転嫁が進んでいる」は大企業は43.0%(144社中、62社)だったのに対し、中小企業では37.8%(1,380社中、523社)にとどまった。商品の競争力や交渉力に隔たりがあるようだ。
 「その他」では、「昨年の能登半島地震の影響が落ち着きつつあるため」(建築設計業、資本金1億円未満)など。

Q2.Q1で「増益」と回答された方に伺います。なぜ増加を見込みますか?

Q3.Q1で「減益」と回答された方に伺います。なぜ減少を見込みますか?(複数回答)

◇「受注減少」が最多、利上げやトランプ関税の影響も

 Q1で「減益」と回答した企業のうち、2,042社から回答を得た。最多は「受注(販売)が落ち込んでいる」の59.0%(2,042社中、1,205社)だった。また、「仕入高騰分の価格転嫁が進まない」の43.9%(897社)、「光熱費、燃料価格高騰分の価格転嫁が進まない」の37.3%(762社)、「賃上げ分の価格転嫁が十分に進まない」の37.1%(758社)と価格転嫁に関する回答が目立つ。また、「トランプ関税による受注機会の喪失」の9.6%(198社)など、トランプ政権の動向が利益に影響を与えるとの回答もあった。
 「その他」では、「金利が上がったことにより持ち家が建たなくなってきた」(不動産業、資本金1億円未満)など。

Q3.Q1で「減益」と回答された方に伺います。なぜ減少を見込みますか?

Q4.貴社の債務(負債)の状況は、次のうちどれですか?(択一回答)

◇「過剰感あり」は24.3%

 負債比率や有利子負債比率など定量数値に限定せず、債務の過剰感を聞いた。 
 「コロナ前から過剰感」は9.2%(6,186社中、572社)、「コロナ後に過剰感」は15.0%(933社)で、合計24.3%が「過剰債務」と回答した。前回調査(2024年6月)からは1.7ポイント改善した。
 「過剰感あり」(コロナ前から+コロナ後に)を業種別(業種中分類、回答母数10以上)で分析すると、「印刷・同関連業」が50.7%(65社中、33社)で最も多かった。また、「道路旅客運送業」は50.0%(14社中、7社)で、2業種が50%以上だった。
 「コロナ後に過剰」と回答した企業が最も多かった業種は、「道路旅客運送業」の42.8%(6社)だった。
 規模別でみると、大企業の「過剰感あり」は13.9%(472社中、66社)だったのに対し、中小企業では25.1%(5,714社中、1,439社)に達し、10ポイント以上の開きが生じた。

Q4.貴社の債務(負債)の状況は、次のうちどれですか? 



 2025年度の業績予想は、「増収」が30.6%にとどまり、前回調査39.9%から大幅に減少した。ただ、「減収」も前回26.9%から24.8%へ減少し、売上高を「横這い」と見込む企業の割合が増加している。利益も同様の傾向で、コロナ禍から回復基調にあった国内企業の業況は、早くも踊り場を迎えたと言えそうだ。
 背景には複合的な要因がある。「減益」を見込む企業は「受注(販売)が落ち込んでいる」との回答が最も多かった。ただ、人手不足と賃上げ、進まない価格転嫁や円安、利上げによる利払い負担の増加、トランプ関税による機会損失や費用増の危惧など、利益が落ち込む理由は多岐に渡る。
 リーマン・ショックやコロナ禍では、需要消失への対応と資金繰り維持への支援が求められたが、いま国内企業にはいくつもの逆風が吹き荒れている。これまで常とう手段だった信用補完を中心とした支援だけでは、乗り切ることが難しい。政策立案や伴走支援では業種や企業の特性に則した対応が必要になっている。


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