【解説】秀和システムの法的整理、異変察知は「船井電機より前」
(株)秀和システム(TSRコード:292007680、東京都)への問い合せは、船井電機(株)(TSRコード:697425274、大阪府)の破産の前後から急増した。ところが、あるベテラン審査マンは「ERIが弾けた時からマークしていた」と耳打ちする。
ERIとは、2024年8月20日に債権者から会社更生法の適用を申し立てられた(株)環境経営総合研究所(TSRコード:294046615、東京都)の略称だ。大規模な粉飾決算に手を染めていたERIは同年9月30日に会社更生開始決定を受けている。このERIが55%出資し、船井電機の子会社である(株)船井興産(TSRコード: 571644031、大阪府)が残りの45%を出資したEIF西日本(株)(TSRコード:712192000、岡山市)も同年8月29日に会社更生法を申請している。
船井電機が資金繰り難に陥った背景の一つに、グループを通じて傘下に収めた脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を運営する会社の広告費の債務保証が横たわる。秀和システムは2021年5月に船井電機を事実上傘下に収めたが、どのタイミングで秀和システムや代表の上田智一氏に視線を向けるかは、資本や債務保証の背景をどう結び付けるかで大きく異なる。冒頭の審査マンは、すべてを把握したうえで、ERI問題が表面化した段階でこの企業群への与信を引き締めている。
東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、秀和システムの2024年3月期の総資産合計は29億1,300万円、対して純資産合計は10億2,000万円で表面上悪くない。ただ、船井電機の経営危機が表面化し、秀和システムとの関係性がメディアなどで指摘され始めると「出版物の返本が相次ぎ、資金繰りが逆回転し始めた」と窮状の様子を耳打ちした。私的整理を模索する動きも伝わり、秀和システムの業況は目に見えて悪化していった。
さらに、「ミュゼプラチナム」の事業運営に関連した債務を巡り、有名マーケティング会社が秀和システムの債権の回収を試みているとの情報も駆け巡った。
2025年7月1日夜、秀和システムの上田智一氏はTSRの取材に「弁護士に止められており、答えられない」とコメントした。代理人事務所や秀和システムの従業員も今回の件で、取材に口を堅く閉ざしている。7月1日付で秀和システムが取引先へ送った通知には、「多額の債務超過に陥ったため、裁判所の手続きを用いて出版事業を他の出版社に引き続いでもらう選択をした。未払い債務は法的整理により支払えない」(抜粋)と記載されている。法的手続きが何を意味するのか。会社分割による事業譲渡なのか、これを受け取った関係先は戸惑いを隠さない。
7月2日朝、関係筋は「本日中に開始決定が出るようだ」と匿名を条件に取材に応じた。また、秀和システムの一部取引先には、事業譲渡に関する通知が送付されている。それによると、出版事業は都内企業へ譲渡されるという。
こうした動きから「計画前事業譲渡」の実務類型が頭をよぎる。これは管財人による否認リスクはあるが、資金繰りがひっ迫して新規のファイナンスが付きにくいなか、事業自体を生かす目的で活用される。法人の再建は不可能だが、事業価値は残っているとの判断だ。
これとは別に7月2日、船井電機の債権者集会が14時から開催された。船井電機の破産が象徴する一連のスキームは大きな節目を迎えた。
秀和システムの入居ビル(TSR撮影)
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年7月3日号掲載予定「解説」を再編集)